胸中の山水 [著]細川護煕


現在、菊池寛実記念智美術館で開催中の、「胸中の山水 細川護煕」展では、展覧会図録に替えて、単行本の形で「胸中の山水」(B5版、157頁)が青草書房(株)から発刊されている。細川氏が自らの言葉で、個々の作品の制作意図を語るだけでなく、美学や人生観までをも、読みやすい文章で書き綴っている。

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展覧会に出品された11の油絵については、そのイメージの元になった漢詩を、氏がどのようにとらえているかが、丁寧に語られている。

例えば柳宗元の「江雪」という詩について、氏は「『絶』『滅』『独』『寒』といった文字が私の心に響き、詩人の魂の叫びが聞こえてくるような気がするのです」と書いている。それを読むと、濃い蒼の山々、どんよりと重い空、白く寒々とした川の上に、豆粒のように小さな船と人といった、絵の中の世界が、より深く理解できる。

茶陶については、10盌を選んだ同館の林屋晴三館長が、それぞれの茶盌の見所やエピソードなどを執筆。読み応えのある1冊となっている。

(青草書房、2,625円)